あいさつ

教 授 小田 賢幸

古代ギリシャのアリストテレスは生物体を3つの階層で構成されると考えました。第一段階は、四元素すなわち土、水、空気、火が合わさってできる未組織の Physical substances 根源的物質、第二段階は homogenous parts 等質部分すなわち組織、第三段階は heterogenous parts 異質部分すなわち器官です。1839 年にシュワンの細胞説が発表されるまで、生物学者にとって組織よりも小さな段階はドロドロの無機的基質以上の意味を持ちませんでした。分子生物学が発達した現在では、細胞質は単なるドロドロの基質ではなく、1mm の百万分の 1 という小さな分子が極めてダイナミックに動きまわり、我々ヒトを含む生命を支えている場であることがわかっています。私達の研究室では電子顕微鏡をはじめとする様々な先端技術を用いて、このような細胞内のナノワールドを観察することで、生命の謎を解明しようとしています。

研究テーマ1:クライオ電子顕微鏡を用いた組織学

教授 小田 賢幸

クライオ電子顕微鏡(cryo-EM)は、サンプルを極低温(クライオジェニック)環境下で観察する電子顕微鏡です。これにより、生体分子をその自然な状態で保存しながら、非常に高い解像度で観察することができます。従来の方法では難しかった生体分子の三次元構造を詳細に解析できるため、近年、生命科学の分野で広く利用されています。この研究テーマの核心にあるのは、「クライオ電子組織学(cryo-electron histology)」と名付けた最先端のアプローチです。クライオ電子顕微鏡を用いて、心臓や皮膚、膀胱など特定の組織に固有のタンパク質複合体や細胞小器官の複雑な構造を明らかにすることに焦点を当てています。この手法により、解剖学と構造生物学の融合を図り、生体内の微細な構造の詳細な理解を目指しています。

繊毛ナノマシンの分子機構を解明する

研究テーマ2:真核鞭毛の運動機構、構築機構を解明する

講師 久保 智広

生物の体を構成する細胞には、鞭毛(繊毛と同義)という運動性の細胞小器官があり、細胞の活動に重要な役割を担っています。鞭毛に異常があると「繊毛病」というヒトの病気が引き起こされることが分かっています。そのため、鞭毛がどのように形成され、運動するかを理解することは基礎生物学的にも基礎医学的にも重要です。私たちは、クラミドモナスという2本の鞭毛を持つ単細胞緑藻類を用いて、これらの疑問を解明しようとしています。本研究室では以下のような実験技術の習得が可能です。

クラミドモナスの培養法、交配、遺伝解析 / PCRによるコンストラクト作製 / ゲノム編集による変異株の作製と単離 / 蛋白質精製およびウェスタンブロッティング / 細胞の運動性解析/ 単離軸糸の微小管滑り運動 / 電子顕微鏡法 (SEM/ TEM) / 間接蛍光抗体法など

研究テーマ3:不思議な海産動物 平板動物の多様性を探求する

助教 塙 宗継

平板動物(Placozoan)は多細胞動物のなかでも比較的初期に分岐した動物であり、筋肉も神経も循環器もない単純な体構造を有しています。しかし、そのような単純な動物であるにも関わらず、性成熟して卵や卵黄を体内に形成したり(ただし、研究室内の飼育系では個体発生まで至らない)、個体間でキメラ化したり、平板動物には未解明かつ魅力的な現象が多く存在しています。また、平板動物は無色透明であるためフィールドで直接観察することも難しく、自然界での生態もほとんどわかっていません。本研究室では、そのような謎だらけの平板動物の生態を明らかとするために、研究室内で飼育している個体を用いた実験とフィールドワークによる調査を実施しています。

上述の平板動物に関する研究以外にも、海なし県である山梨県における海洋生物を用いた海洋教育活動や静岡市用宗海岸をフィールドとしたムラサキウニの生態調査や廃棄野菜を用いたウニの養殖研究(ピックルスコーポレーション、静岡県立焼津水産高等学校との共同研究)も実施しています。

本研究室では、主に以下のような実験手法により研究を進めています。

動物分類 / 組織標本作製 / 分子マーカーによるハプロタイプ解析 / 間接蛍光抗体法 / Whole-mount in situ hybridization / 電子顕微鏡法(SEM/TEM) / 加圧凍結 / RNA-seq / 二次元行動解析 / 平板動物のキメラ誘導

研究テーマ2:センモウヒラムシから多細胞生物の進化を探求する

研究テーマ4:脳神経活動から個体差が生じる機構を解明する

助教 高橋 光規

私たちヒトを含め動物は、同じ感覚刺激に対して個体ごとにさまざまな応答をします。このような個体差は、神経系の情報処理のノイズにすぎないのか、それとも多様性を確保するための神経機能なのか、明確には答えが出ていません。自閉スペクトラム症では、個体差が非常に大きくなっており、疾患の観点からも個体差の機構解明は重要な課題です。本研究室では、体長 1 mmの小さな線虫Caenorhabditis elegans (C. elegans)をモデル生物として、個体差の神経機構解明を目指しています。約300個の神経細胞からなるコンパクトな脳モデルで、以下のような実験技術を駆使して研究を進めています。

3次元観察顕微鏡による全脳イメージング / ハイスループット神経イメージング / コンストラクト作製などの分子生物学 / 神経活動データの数理解析 / 機械学習による解析 / 様々な画像解析手法 / プログラミングによるオリジナルツール開発 / 電子顕微鏡によるシナプス観察など